実話を元にした映画で、歴史的背景を知れば知るほど
感情移入できる作品だと思う。
映画の舞台は1950年代初頭の
スターリンによる強制連行が横行していた時代。
ソ連の勢力圏に入れられるが、
1941年に独ソ戦が始まると、
ナチス・ドイツ側につき、
エストニアは激しい内戦状態に陥った。
ドイツの敗戦により、
スターリンは、ドイツ側で戦った市民を強制連行する。
主人公の元フェンシング選手、エンデルは、
戦時中にドイツ側に立って戦ったため、逃亡。
身分を偽り、田舎町ハープサルに
教師として流れ着いたのだ。
しかし生徒たちと出会い、
フェンシングの指導をする中で、
エンデルは逃亡を続ける生き方との決別を決意する…
この映画が描くテーマは、
父親という存在の復権だと思う。
激しい内戦を経て、リトアニアの田舎町の
多くの生徒には、父親がいない。
エンデルは生徒と接する内に、
自ずと父親役としての責任感を感じ始め、
逃亡者の身分では、
その責任を果たせないことを悟るのだ。
映画では、物語ははっきり明確に進行するが、
役者の感情表現は全体的に抑制的。
その分、マルタを演じる子役、リーサ・コッペルと、
同僚の女性、カドリを演じるウルスラ・ラタセップの
感情表現が印象に残る。
実話をもとに淡々と進み、
骨太の感動が押し寄せるこの感覚は、最近見た映画では
『ハドソン川の奇跡』に近いと感じた。
監督がインタビュー記事で、
「アメリカの古典映画の影響を強く受けた」
と答えていて、納得。