誰を裁くのかは、誰が決めるのか?
この映画の最大のテーマであり、
その答えは、怖いものだ。
考えれば考えるほど人ごとではなく、怖いものだ。
人には本当に、人を裁く資格を持ち得るのだろうか?
役所広司さんは「器」のような役者さんだ。
自らを滅することで、誰にでもなる。
今回は「三隅」という一人の人物の中に、
殺人鬼と、聖人、そしてただの凡人という
三人の人物を同居させることに成功している。
心の片隅から、
それぞれの側面が浮かび上がってくるような
素晴らしい演技だ。
そして監督はもう一つ、仕掛けていたのでは。
それは、答えは一つということだ。
事実だけを積み上げたらどうなるか。
事実だけを求めて矛盾を解けば
行き着く所は一つなのでは。
物証が示す事実だけを見つめ、
行動の合理性から外れる供述を省き、
人を殺めるだけの動機はなかなか無いという
原則に立ち戻るだけだ。
でも、それは難しいのだ。
大小様々な人の思惑は、
事実をどんどんどんどん曇らせていくのだ。
人間というはっきりしないもの。
割り切れないものを真正面から描いた名作かと!