棋士の世界。
特異な勝負師の世界を、
スクリーン上に忠実に再現した良作。
ノンフィクションならではの静かな感動は、
『ハドソン川の奇跡』を見た後の充足感と似て、
じわーっと余韻が広がります。
村山聖さんが長生きできていたら、とか、
健康だったら、とかいう仮定は、
一切意味を持たないのだと思いました。
幼い頃から重病を患ったから、
村山聖さんは将棋に出会った。
将棋があったから村山さんは限られた人生を、
生き抜くことができた。
青春の全てを将棋に注ぎ込むしかなかったから
強かった。
そして、人生丸ごと賭けた挑戦を受けて立てる
羽生さんという壁が、同世代に存在した。
それが奇跡的なことであることを、
一番深く分かっていたのが、
盤を挟んで対峙した羽生さんだったのでしょう。
激戦の末、
村山さんが力尽きたように落手した時に、
東出・羽生善治さんが流した涙には、
心を強く揺さぶられました。
二人は盤上で、命を賭けた対話を、
繰り広げていたのでしょう。
そこにはどんな景色が広がっていたのか?
二人にしか、知ることが許されない世界です。
村山さんが亡くなった後、対局に臨む
羽生さんの短いシーンが印象に残りました。
村山さんの人生を背負い込み、
さらなる孤高の領域に到達した羽生さん。
百年に一人の天才と言われる
羽生さんにとってこそ、
人生の全てを賭して挑んでくる村山さんは、
なくてはならない存在だったのでしょう。
見た目や、話し方、仕草などを手掛かりに、
極限を共有した人たちの、心の動きに、
迫る演技をしていたと思います。
精一杯生きることの意味を、
深く問いかけてくる映画でした。