ものすごく面白かったのです。
それは、自分が無知ゆえにビートルズとは何だったのか、全く分かっていなかったから。
法被姿のビートルズが羽田空港に降り立つ写真が、なぜ教科書に出てくるのか、真剣に考えたことがなかったのです。
映画は1962年にデビューしたビートルズが
彗星の如く世界的スターにのし上がり、
ライブで世界を席巻し、
1969年にアップル社の屋上で最後のライブを行うに至る過程を描いています。
とにかく世界に熱狂の渦が広がっていく様が凄まじい。
100年〜200年に一度の存在と称されるのも分かるし、
モーツァルトと並ぶ天才と称されるのも分かるし、
ジョンが『キリストより人気』なんて言ってしまうのも分かってしまうぐらい、世界が熱狂していたのです。
その熱狂ぶりを目の当たりにし、無知な自分は考え込んでしまいます。
何故こんなことが実際に起こりえたのか⁉︎と。
確かにビートルズの4人は、才能あると思うし、勇敢に見えるし、見ていて美しい。
でも忘れてはいけないのは、彼らはイギリスのリヴァプールの労働者階層から、突如現れたスターだということです。
初期の記者会見のやりとりとか、インタビューなどを見ていても、彼らはいわゆる等身大のアイドルなのです。
近くに居そうな存在なのです。
それが何故、ものすごくカッコよく映るのか?
それは彼らの存在が、20世紀という時代がもたらした『成果』、それも『成果のピーク』を象徴してしまったからなのだと感じました。
やっぱり、ビートルズについて考える場合、
大きな歴史の流れを感じずにはいられないのですが、
19世紀に自由・民主主義という概念が育まれたヨーロッパは、
20世紀の前半、二度の世界世界大戦に明け暮れます。
ようやく平和が到来した20世紀の中盤…
民主主義の恩恵を受けても良い、平和な時代に現れたのが、ビートルズだったのだと思うのです。
ビートルズがイギリスで彗星の如く飛躍した1963年に
アメリカではマーティン・ルーサー・キングが夢を語り、ケネディが暗殺されました。
ビートルズが世界を席巻していた1965年にベトナム戦争が始まります。
1973年にはオイルショックが起こり世界は再び、不安な時代に突入していきます。
1945年に世界大戦が集結してからの30年間、平和と平等を謳歌してよい時代の絶頂期。
ベビーブームだった瞬間を象徴したのがビートルズだったのではないでしょうか。
ビートルズに世界が熱狂し、ビートルズが世界を股に掛けてライブを行っていたことは、
正に、平和の祭りだったのだと、この映画を見て思ったのです。
だから、ビートルズの絶頂期の歌詞は、しごく単純な恋愛を歌っていて、ロックではないのだと。
普通の若者の台頭ではあるけど、折角の平和な時代を楽しむのに、反骨とか要らなかったのです。
だから、ビートルズは人種隔離政策に、正々堂々と反対した。
それこそが、彼らだったから。
日本に関して言えば、ビートルズが世界を席巻した1964年に東京オリンピックが開催。
日本人が再び世界での自信を取り戻した直後の1966年、ビートルズはやって来たのです。
そして「世紀の熱狂」を駆け足で通り過ぎた四人が、
稼ぐためのライブから遠ざかり、レコーディングスタジオメインの活動を始めて、行き着いた境地。
多様化していく世界で、その変化を表現するアーティストとして、円熟していく雰囲気までを実感できる…
この映画を見て、本当に良かったです!